日本で歯ブラシが広まり始めたのは明治時代ですが、当時はブラシ製品自体が初めて見るものだったため、その利便性が注目され、ブラシの製造に心血を注ぐ業者が徐々に出現しました。歯ブラシの量産もその流れを受けたもので、植毛部には様々な材料が用いられていました。例えば柄には竹や鯨、水牛の角などが利用されましたし、植毛部には馬の毛が使われました。このことから、当時の歯ブラシは「鯨楊枝」と呼ばれていたのです。因みに鯨楊枝を製造するためのモデルはインドから輸入したイギリス製の歯ブラシで、見よう見まねで造ったと言われています。さて、日本よりもはるかに早くから歯ブラシを使用していた西洋では、どのような歯磨き文化が育まれてきたのでしょうか。西洋の歯ブラシの起源は17世紀のフランスとされており、骨で作った柄と馬の毛でできた植毛部とで成り立っていました。それは17世紀に書かれた「ソフィアの伝記」でも言及されていることから、ある程度裏付けられていると考えられます。因みにフランスのライバルであったイギリスでも、17世紀頃には歯ブラシを使って歯を磨いていたとされます。次に日本以外のアジアにおける歯ブラシの歴史を見ておくことにしましょう。実は中国は西洋よりも早くから歯ブラシの文化が興っていたとされており、10世紀には馬の毛を象牙の柄に付けて磨いていたと考えられます。「正法眼蔵」の記述からも、いわゆる楊枝の文化は13世紀には廃れていたことが分かります。中国が西洋よりも早く歯ブラシを開発していたことは驚異に値しますが、中国から日本に伝わらなかったのは不思議なものです。